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東京地方裁判所 昭和46年(刑わ)7149号 判決

被告人 永田昌彦 外八名

主文

一、被告人永田昌彦、同平松昇、同竹内政行、同菅収、同柳沢清、同中山英男、同岩本信敏をそれぞれ懲役一〇月に、被告人野本隆志、同近藤真言をそれぞれ懲役一年に各処する。

二、被告人らに対し、未決勾留日数中各七〇日をそれぞれその刑に算入する。

三、被告人らに対し、この裁判が確定した日からいずれも二年間、それぞれその刑の執行を猶予する。

四、訴訟費用(略)

理由

(罪となるべき事実)

被告人らを含むいわゆる革マル派全学連は、昭和四六年一一月一九日、当時国会において審議中のいわゆる沖繩返還協定の批准を阻止するため国会に向けて直接的な抗議闘争を行なうことを計画したが、国会周辺における集団示威運動等集団行動が東京都公安委員会によつて許可される可能性がないものと判断し、全国から参集した同派学生集団は、ひとまず明治公園において集会を開いたうえ芝児童公園まで集団行進を行ない、その後一旦解散したことを装つて三々五々東京都港区新橋周辺に赴き、再び集団を形成して国会方向に向けて無許可の集団示威運動等集団行動を行なうとの行動方針をたてたが、右集団行動は同公安委員会の許可を得ないものであるため、警察官らによる制止等が当然予想されるので、芝児童公園へ向う集団とは別個に少数グループをして国鉄新橋駅前広場付近に火炎びん、石塊等を運搬させておき、同所で右集団と合流させたうえ、警察官らによる制止等が行なわれた場合には、同集団において右火炎びん、石塊等を投げつけ使用することとした。

被告人らは、右計画のもとに、同月一七日ないしは一八日それぞれ個々人ごとに火炎びんの運搬を指示され、当日それぞれ火炎びん入りのボストンバツグあるいはシヨルダーバツグを受け取つたうえ、

第一、被告人柳沢、同中山、同近藤および同岩本は、ほか一名とともに、前記のとおり警察官らの身体等に対し他の者と共同して危害を加える目的をもつて、昭和四六年一一月一九日午後一時前後ころ東京都港区新橋一丁目三番地付近路上において、火炎びん(ビールびんにガソリンと硫酸の混合液を入れて栓をし、びん外側に塩素酸カリウムと糖を付着させた包帯様布片を巻きつけたもの、以下同じ)二〇本を携えて集まり

第二、被告人竹内および同菅は、ほか三名とともに、前記のとおり警察官らの身体等に対し他人と共同して危害を加える目的をもつて、同日午後三時ころ同区新橋三丁目二五番一九号新橋ニユース劇場前付近路上において、火炎びん二〇本を携えて集まり

第三、被告人永田および同野本は、ほか二名とともに、前記のとおり警察官らの身体等に対し他人と共同して危害を加える目的をもつて、同日午後五時三〇分ころ同区新橋三丁目一六番二三号喫茶店「ハナムラ」前付近路上において、火炎びん一六本を携えて集まり

第四、被告人平松は、ほか四名とともに、前記のとおり警察官らの身体等に対し他人と共同して危害を加える目的をもつて、同日午後六時ころ同区新橋三丁目二五番一九号新橋文化劇場前付近路上において、火炎びん一二本を携えて集まり

もつて、それぞれ他人の身体等に対し共同して害を加える目的で兇器を準備して集合したものである。

(証拠の標目)(略)

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、被告人らは他の学生らに火炎びんを渡すべく運搬中であつたのであつて、自ら火炎びんを使用して警察官らに対し危害を加える意図を有していたのではないことはもちろんのこと、警察官らに対し「共同して害を加える」ことを直接の目的としていたわけでもなく、又当時加害目的実現の具体的可能性は全く存在しなかつたとして、被告人らの本件行為が兇器準備集合罪の構成要件に該当しない旨主張する。

前掲各証拠によれば、被告人らは、火炎びんを運搬するために、被告人柳沢、同中山、同近藤、同岩本ほか一名の者が火炎びん二〇本を、被告人竹内、同菅ほか三名の者が同じく二〇本を、被告人永田、同野本ほか二名の者が同じく一六本を、被告人平松ほか四名の者が同じく一二本をそれぞれ各別に都内某所で同一の機会にこれを受領した後同一の行動経路をとつたうえ、判示犯行の日時場所においてそれぞれグループをなして携え共同所持していたことおよび右火炎びんは判示のように警察官らに対し投げつけ使用するためのものであつたことが明らかであつて、右火炎びんがいわゆる性質上の兇器に属することをも考慮すると、被告人らが四つのグループに分れて兇器を準備して集合していた事実は疑いのないところである。

そこで、被告人らが兇器準備集合罪にいうところの共同して害を加える目的のもとに集合していたか否かの点を以下検討することとする。

(証拠略)を総合すると、いわゆる革マル派全学連は、当時批准案件が国会審議においてされていたいわゆる沖繩返還協定に関し、その国会審議が重要な段階を迎えたとして、本件当日の昭和四六年一一月一九日右協定批准阻止のため国会に向けて直接的な抗議闘争を行なおうと計画したが、国会周辺における集団示威運動等集団行動は東京都公安委員会において許可される可能性がないものとして、明治公園において集会を行ない、同公園から芝児童公園までデモ行進を行なうなど、都公安委員会の許可のもとに公然と集団行動を行なつたうえ、一旦右芝児童公園において解散したとみせかけ、警備にあたる警察官らの眼につかないよう三々五々と新橋周辺に参集し、再び集団を形成して国会方面に接近すべく行動をとることとしたが、それが同委員会の許可を受けない集団行動であるため、警察官らによる制止等が当然予想されたので、この警察官らによる規制に対抗するためあらかじめ火炎びん、石塊等を新橋周辺に用意し、集団行動参加者は各自これで武装し、規制しようとする警察官らに対しこれらを投げつけ使用することとしたこと、もつとも、火炎びんの投てきについては、用意できる火炎びんの数に限りがあるため(その数約六〇本)(特別)行動隊と呼ばれるグループを集団先頭部分に配置し、主としてこれらの者において行なうこととされたこと、前記の火炎びん、石塊等については、当初から右集団が携行所持していたのでは事前に警察官らに発見される虞れがあるため、右集団による闘争参加予定者の中から別途運搬担当者をきめて所定の場所に運搬用意させておき、その場所において両者を合流させることとしたこと、これらの行動計画は、革マル派全学連に参加あるいは同調していて、同派の行なう当日の集団行動に参加すべく各地から上京した者に対しては、早稲田大学内において前日夜から当日にかけて各地大学グループ単位での説明会、地方別集会、全体集会を重ね行なう過程で同趣旨の説明が繰返され、周知徹底がはかられたこと、他方、前々日から前日にかけて、被告人らを含む比較的少数の者については、個別的に火炎びん運搬を受けたうえ、当日都内某所において火炎びん入りのバツグを受け取つて新橋周辺に赴き、午後五時から同六時ころを目やすに国鉄新橋駅前広場周辺において同所に立つ早稲田祭あるいは文連(早大文化団連合会)の旗を目じるしにして新橋周辺に参集して来る集団に対し右火炎びん入りのバツグを引渡し、そのうえで右集団中にまぎれ込んで国会に向けての集団行動に参加することが予定されていたこと、被告人らはいずれも革マル派全学連に加入ないし同調する者であつて、それぞれ国会に接近して行なうという抗議闘争に参加しようという意欲を抱き、右闘争の過程において右火炎びんが使用される趣旨を充分理解しており、集団行動に際して警備制止等にあたる警察官らに対し火炎びんを初め他に準備された石塊等を投げつけ攻撃する際にはこの集団の一員として積極的にこれに加担する意図を抱いていたこと、新橋周辺に参集することが予定されていた集団は、明治公園において集会を開いた後予定より遅れて午後四時ころ同所を出発し、芝児童公園には着かず、再び明治公園に向い、午後七時ころ右公園に立ち戻るという事態が生じ、さらに日比谷公園において松本楼の焼き打ち事件などが発生したため警察官による警備警戒が厳重となり、新橋周辺には集団として集合することが困難な状況になつたため、急きよ計画が変更され、ようやく同日夜おそく、同集団のうち一〇〇名から一五〇名くらいの者が浜松町周辺に集まり、路上にバリケードを築き、警察官らに投石するなど、いわゆる解放区闘争を行なつたことがそれぞれ認められる。

してみると、これらの認定事実に照らすと、新橋周辺に参集することが予定されていた革マル派全学連集団にあつては、警備制止にあたる警察官らに対し火炎びん、石塊等を投げつけるなどして、共同して加害行為に出る意図を固めていたこと、被告人らの火炎びんを運搬した者においても右集団の構成員として加担する意図を有していたことは明らかというべきである。

弁護人は、共同加害の目的があるというには、当該集合体自体が直接共同して加害行為に出る意図があることおよび加害行為に出る具体的現実的状況にあることが必要であるというけれども、兇器準備集合罪が集団による殺傷事犯等を事前に防止するため、加害目的をもつてする集合行為自体に公共の危険を認めてこれを処罰しようとする同罪の目的、性格に徴すると、そこにいうところの共同加害の目的とは広く共同正犯と認められる形態によつて集団による加害行為に加功する意思が明らかであればよく、その加害意思も将来の不確定的状況と対応するものであつても、そういつた状況の発生が実際に予測されているときは、共同加害の目的を肯認することができるものと解すべきであるところ、これを本件に則していえば、新橋周辺に参集することが予定されていた革マル派全学連集団において警察官らの少なくとも身体等に対し共同して危害を加える目的を有しているし、被告人らにあつてはそれぞれ右集団と合流したうえ、右共同加害行為に共同正犯として加功すべくその用に供することのできる兇器を準備していたのであつて、両者の主観的な結合関係、時間的場所的接着性を考慮すると、被告人らについて、新橋周辺に参集することが予定されていた革マル派全学連集団に合流する以前の段階であつても、被告人らによつて構成された集合体は公共に対する危険性を有するべく、共同加害の目的を肯認してよいものというべきである。

よつて、弁護人の前記主張は採用しえない。

(確定裁判)

被告人野本は、昭和四七年四月五日東京地方裁判所において建造物侵入罪により懲役三月、執行猶予一年の刑に処せられた(同月二〇日確定)のもので、この事実は同被告人に対する判決書謄本によりこれを認める。

(法令の適用)

被告人柳沢、同中山、同近藤、同岩本の判示第一の各所為、被告人竹内、同菅の判示第二の各所為、被告人永田、同野本の判示第三の各所為、被告人平松の判示第四の所為は、いずれも刑法第二〇八条ノ二第一項前段に各該当するところ、いずれも所定刑中懲役刑を選択し、被告人野本については、前記確定裁判のあつた建造物侵入罪と同法第四五条後段の併合罪なので、同法第五〇条によりまだ裁判を経ない本件の罪についてさらに処断することとし、いずれも所定刑期の範囲内で被告人柳沢、同中山、同岩本、同竹内、同菅、同永田、同平松をそれぞれ懲役一〇月に、被告人近藤、同野本をそれぞれ懲役一年に各処し、同法第二一条を適用していずれも未決勾留日数のうち各七〇日をそれぞれその刑に算入することとし、いずれも情状により同法第二五条第一項を適用してこの裁判が確定した日からそれぞれ二年間その刑の執行を猶予することとし、訴訟費用については、刑事訴訟法第一八一条第一項本文、第一八二条により主文第四項のとおりそれぞれ被告人らに負担させることとする。

よつて主文のとおり判決する。

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